wに過ごすうちに高比古がいろいろな笑顔を覚えていくのを、自分の目で見てきたのだ。
今、高比古の顔にある笑みは、例えるなら、風がいっさい吹いていない時の湖面のようだった。
風のない時の湖面は波が立たないので、水面は巨大な水鏡になり、周りの景色をすべて写し込み、それを見る人がため息を漏らす壮麗な景観をつくり上げる。
でも、水鏡のような湖面が美しいと感じるのは、それが珍しい光景だからだ。普通、風は吹いているものなのに、吹いていないからだ――。
「――高比古が元気だと思うなら、いいんだ。水、もっと飲む?」
「いや、もういいよ」
この人が、こんな笑顔を浮かべるのはどうしてだろう――?
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そう思って、狭霧が「どうして?」と尋ねても、返ってくるのは、「いつも通りだよ」というそっけない答えだった。大神事のことを尋ねても、それは同じだ。
(高比古は、あまり触れて欲しくないみたい。大神事のことを尋ねても、軍議のことを尋ねても、そのほかのことを尋ねても――。どうしてだろう。高比古は、ちゃんと答えてくれているのに。それは答えじゃないっていう気がしてたまらない――。高比古が、わたしに何かを隠している気がしてたまらない……)
狭霧は、水壺を抱えてぼんやりとした。
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「――ねえ。手を、つなごう」
「――いいよ」
抱えていた水壺を木床の上に置くと、手のひらを高比古の手のひらに重ねた。手と手を重ねると癖のように身を寄せて、狭霧は、高比古の肩に頭をもたれた。高比古も自然な動きで片腕をあげて、狭霧の肩を軽く抱き寄せた。
狭霧は、高比古の肩の上で目を閉じた。
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「言葉って、難しいね。今は、なにも思わないのに」
「今は、思わない? さっきはなにかを思ってたのか?」
「――どうなんだろう。わからないけれど……さっきはなんだか不安で、話していると、頼りなく感じたの。でも、今は感じない。ただ、あったかいなあ、落ち着くなあ――って」
「おれもそうだ。言葉なんか、ないほうが楽だな」
高比古のいい方は、まるで、もう喋りたくないという風だった。それには、不安になった。
「そんなふうにいわないで。話ができるから、人と人はわかりあえるものよ」
「そうか? 今は、これだけで十分だ。いちいち話さなくてもいい気がするし――」
「――でも……」
狭霧は、高比古の衣にうずもれるようにそばに寄って、重ねた手で高比古の手をきゅっと握った。
「ねえ、高比古――。事代って、人の心を読めたりするの?」
「そんなこと、できないよ」
「じゃあ、巫女は? 代をたくさん用意して神威を使ったら、人の心を読める?」
「そんな話は聞かないな」
「そっか。――なら、やっぱり話すしかないんだね。言葉って、要るんだ……」
高比古は苦笑した。
「妙なことをいって――どうしたんだ?」
「わからないけど……。ね? 高比古もわからない? じゃあ、気持ちを伝えるには、やっぱり言葉は大事なんだね」
「どうしたんだ? ――あんたのほうこそ、元気がないよ?」
高比古が狭霧の肩を抱く仕草は自然だったし、優しかった。
恋しい人の近くにいって優しくされると、思わず狭霧の唇には笑みがこぼれた。
でも、妙な胸騒ぎはぬぐえなかった。
(こんな上澄みみたいな話じゃなくて、もっと深い話がしたい。高比古には、わたしに話したくないことがあるみたい。御津のことか、大神事のことかはわからないけれど――。それに、わたしも話せないでいることがある。――へんだな。前は、本気で怒鳴り合っても平気だったのに――)
何日も何日も、狭霧に